2016年 コラム・つぶやき 勉強法(二次試験) 組織人事

5つの「イオン」で事例分析 実践編(1)Vision

前回のコラムで、事例企業の姿を限られた時間で理解するために、Vision、Mission、Passion、Action、Reflectionの「5つのイオン」で分析することを提案しました。今回は、それを実際の過去問で行ってみます。

例として、平成27年度事例1を取り上げます。この事例は、プラスチック製品メーカーの事例で、スポーツ用品製造から始まり、プラスチック容器製造や自動車部品製造と業態を拡大させてゆき、将来的には健康ソリューション事業の拡大を目指している企業の事例です。

はじめに、Visionとその変化について見てみましょう。プラスチック製スポーツ用品の製造で創業した当時、事例企業には明確なVisionがありませんでした。社長は流行の兆しを捉えてバドミントン用のシャトルコック製造から事業を始めました。
その後、外国製品の流入や製品材料の変化による売上減という危機を迎えますが、ブロー成形技術による製品製造で危機を乗り切ります。しかしそこには、Visionと思われるものは現れていません。
やがて、創業者の息子が社長に就任し、ブロー成形技術の高度化と、その技術利用した製品の受注獲得に努めますが、相変わらず社としてのVisionは見えません。事業に対する考え方の相違から、社長はブロー成形の事業を、関連会社として独立させることにします。

新規事業の成長により余裕が出てきた事例企業は、祖業というべきスポーツ用品事業の拡大を指向します。ゲートボール、グラウンドゴルフとターゲット市場を変更し、そのために工場の全面改装や自社ブランドでの販売を進めていきます。2000年代半ばには福祉事業に参入し、さらにシニア事業向け事業で培った知識、経験、ネットワークの活用をできることから、スポーツ関連分野の事業全体を「健康ソリューション事業」と位置づけました。
健康ソリューション事業では、ターゲット顧客をシニア層に限定せず、また体力測定診断プログラムなどのソフト開発にも着手するなど、サービス事業として業容を拡大し、健康ソリューション事業はグループ全体の売り上げの16%を占めるまでの事業にまで成長しました。しかし、ここ5年の間、グループ全体ではプラスチック容器製造、自動車部品製造、健康ソリューション事業の売り上げ比率は大きく変化せず、業績は横ばい、利益も決して高いとは言えません。

こうして事例企業の経緯を概観すると、企業経営の根幹となるVisionが明確に設定されてこなかったことがわかります。儲かると思ってスポーツ用品を始めましたが、市場変化で窮地に立たされ、細々と続けていたブロー成形技術で生き延び、ちょっと成長するとまたスポーツ用品事業に回帰します。厳しい言い方をすれば、プラスチック製造業としての理念や使命といったものが明確に定められていない企業でしょう。そのことは、第3問で問われる、プラスチック容器製造事業の売上の増大が生み出す将来的な経営課題や、第5問で問われる、健康ソリューション事業の拡大に向けた、組織文化の変革や人材育成状の留意点に影響を与えることになります。つまり、事例企業の方向性として、プラスチック製造業とサービス業という、異なる事業ドメインを統合し成長するための理念を明確化することが必要であると考えられるのです。

次回は、Missionについて取り上げます。

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