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1. はじめに
2次試験7回目の受験でようやく合格にたどり着くことが出来ました。3年前に「ねくすと」に入会しOBの方々の信じられない程の献身とメンバーの方々のこれまた信じられない程のモチベーションの高さに刺激を受けこの結果に至ったものと感謝申し上げます。今の心境は、もともと合格は通過点という意識が強く多年度受験で停滞を余儀なくされ「やれやれ、ようやく次のステップに進める」という解放感が正直なところです。
  誰しもが「来年こそは合格」と思っているはずで多年度受験生を目指す者などいませんが、私がこの試験をどの様に意識していたことがそうなる原因であったのか、何をどう改めたことが奏功したのかを記してみたいと思います。多年度受験を避けるためにも、その陥る要因の一つとして参考にして頂ければ幸いです。

2. 受験歴
2006年 予備校通学 1次:○ 2次:ABAA=B
2007年 独学         2次:BAAB=B
業務多忙につき受験中断
2012年 独学 1次:○ 2次:ABBB=B
2013年 独学        2次:BAAC=B
2014年 独学 1次:×  法務足切
  6月 大阪から東京へ単身赴任で転勤、1次試験は東京で受験
2015年 「ねくすと」 1次:○   2次:BAAB=B
2016年 「ねくすと」 1次:○   2次:BBAB=B
2017年 6月 大阪転勤のため「ねくすと」退会、川崎会長のご厚意により
ネットは継続参加
         1次:〇 2次:〇
3. 受験のきっかけ
私は、メーカーで製品開発から事業開発企画系の仕事に従事し、その間、ロボット開発、アメリカのコンピューターベンチャーとのEWS(Engineering Work Station)開発、環境系プラント事業など多種多様な業務に関わってきましたが、そのいずれもが知的欲求を満たすものや情熱を注ぐに値するものでした。しかし、既存事業の製品開発とは異なり新規事業開発の場合、事業の展開と共に形のあるものとして結果が残ったものは一部を除きほとんどなく、40代後半にして「私は社会とどう関わって何か残せているのか?」ということを自問自答し、何もないことに気づきました。そうした中で会社の事業部系の同僚や先輩が協力会社へのコンサルと称して業務改善や改革を生き生きと行っている姿を見て、「物はいずれ陳腐化して消え去るが、会社はゴーイングコンサーンとして継続する。その会社が持つ強みを活かして先鋭化させ事業発展させることを考えるだけでワクワクするな。何か自身でも生涯を通じ貢献できる手立てがないか?」と探して見つけたのが中小企業診断士という資格でした。

4. 試験への気づき
4.1.初学の頃
予備校に通い試験勉強を始めた頃は、これだけの時間にこれだけのことが出来るのかと実感でき今までの自分がいかに自分の時間を無駄にしていたのかと反省しましたし、同じ様な志を持ったあれだけの人達が同じ様に時間を使っているのかと思うと頼もしく思え、将来の日本も大丈夫と変に安心したりもしました。
1次試験については、これまでの業務の過程で培ってきたものもあったお陰もあり予備校のテキストと過去問を中心に回し、不明な点を読みやすそうな専門書で補完することで対応しました。1次試験では、余りお役に立てることは言えないのですが、日常の仕事への取組みという視点で「この仕事で自身が果たすべき役割、この仕事で習得したい技術、ノウハウ、業務遂行に必要な知識を明確にして必要な書籍や文献から情報をインプットしてアウトプットに繋げる」ということを愚直に行っていたことの蓄積が奏功していたのかもしれません。
2次試験については、振り返れば、初回の受験で実力以上の高い評価点を得たことが逆に合格まで道のりを遠くした大きな要因だったと思います。当時の私は自身の経験に基づいて与件を読み替えて自身の考えや主張を解答にしていました。それが、たまたま評価の枠に収まり実力以上の高評価となったため、「このやり方で良いのだ」という誤った成功体験を積んでしまい、「今回は運が悪かっただけ。次は合格するだろう。」とこの試験自体を完全に舐めてしまっていました。
 
4.2.2次試験
 私が7回の2次試験に取り組むスタイルをフェーズⅠ、Ⅱ、Ⅲと分けて述べてみます。

【フェーズⅠ】
まず、フェーズⅠですが、冒頭にも述べた通り
1)与件の中から自身の経験に重なる部分に反応し、自身の経験に基づく仮説を出題者の暗黙の意図として与件の内容を置き換えてストーリーを再編。

2)問題文からも自身の経験に基づく仮説をさらにエスカレートさせ、「出題者の真意はここにあったのか、我が意を得たり。」と勝手に決めつけ、さらに与件を出題者の事例から自身の事例に脚色。
3)思い込みで視野が狭く設問毎の個別解答になっており全体のストーリー性や方向性など考慮する意識は希薄。

試験が終わった時には、自身の主義主張を言い終えた達成感が漲っていました。(笑い)これで良く、評価「A」など取れたなと今では思いますが、当時のお目出たい私は、採点者に自身の主張が受け入れられたと悦に入っていたのでした。採点者も思考の経緯など知る由もないので書かれた文章がたまたまであってもそれなりの文章になっていればそれなりの点がついてしまうのでしょう。逆に言えば思考の経緯が正しくても文章に表れていなければ点数に繋がらないということでもありますので注意が必要です。
 初回でコテンパンに打ちのめされれば気づいたのでしょうが、不幸にもそうならなかった。ここでの教訓は、初学の時には悪い評価点であっても、逆に欠点や修正点が明確になって好循環を生みやすい。中途半端な高評価は慢心を生み本質的な改善に至らない危険性があるということです。設問対応に終始したにも関わらずA評価であったという受験生は「今回限りのまぐれで2度目のまぐれはない」と自戒が必要です。

【フェーズⅡ】
 フェーズⅠからⅡは、業務多忙で受験をしなかったためしばらく間が空きますが、基本的なスタイルは変わっていませんでした。只、この頃は予備校時代に学習した「出題は事例のコンサルレポートを与件と問題に分解して作成される」という教訓を踏まえて、設問構成から解答をレポートのストーリーを想定して考えることを意識しました。解答全体の一貫性は整う様になったのですが、根本のストーリー自体が相変わらず出題者のストーリーでなく、自身のストーリーなので逆に一貫性が整った分、点数が下がる結果になってしまいました。出題者が、「本丸はここだよ。」と与件で示しているのに自身が経験した別の本旨でない箇所に食いついて「それは留意すべき事項だけど些末なこと、こっちが本質をついた本丸」とストーリー展開してしまっていました。思い込みで与件を読んでいると出題者が「ここ、ここだよ!」と与件で明らかに注意喚起している箇所も盲目的に素通りしてしまう状態でした。試験が終わった時には、恥ずかしながらこのフェーズでも達成感を持って終わっていました。おめでたい限りです。(涙)
ここでの教訓は、ストーリーを大きく見誤れば全問総崩れの危険がある。ストーリーのパターンは過去問の中の組合せが基本。自分独りが悦に入る様なストーリーなんて出題されない。私は、色々な視点から想像力をもって考察すること自体は重要なことだと思っていますが、この試験においては封印することが必須です。

【フェーズⅢ】
 さすがに過去4回も失敗するとこのやり方はまずいと確信し、独学とは決別し他者のものさしを取り入れるべく「ねくすと」の門を叩くことにしました。「ねくすと」に参加して一番の収穫は自身の経験に基づく与件読みの呪縛からようやく解放されたことです。「ねくすと」では、「与件に寄り添う」、「事例の方向性」という言い方をしますが、私の場合は「出題者の出題意図を理解する」、「出題者がこの事例企業で描いたコンサルレポートのストーリー」という捉え方がしっくりきます。与件と問題文から出題者の意図を理解し、各設問がコンサルレポートのどういう章に位置付けられるのかを考えます。そうすると自ずと、与件文の何をどの設問で使うか(出題者が使えと言っているか)が見えてきます。今までは、自身が事例企業をコンサルする視点で解答を書いていましたが、全く赤の他人の出題者が事例企業をどうコンサルしたのかが問われているのだという視点で与件や問題文を読むと、設問間の繋がりが明確になり、今まで素通りしていた箇所や違う意図に解釈していた文章が出題者の意図通り素直に読める様になりました。但し、素直に読めるのと共感同意するのとは別で出題はこういう意図だろうなと思えても、その論旨に異論がある場合も勿論ありました。 
 「ねくすと」では、本試験の過去問を繰り返し複数のメンバーと議論し出題者の意図が色々な切り口から検討でき視野が広がると共に、本試験が同じ様な作問パターンで年度を変えて繰り返し問われているのも理解できる様になりました。
 私は、2次試験必勝のカギは、自身が事例企業のコンサルになることを諦めることだと思います。そして、コンサルを行った出題者の取材記者に徹すること、即ち「問題文の後ろに居る出題者との会話により、貴方のおっしゃりたいことはこういうことですよね。」、と言える記事(答案)を書きることだと思います。これらが試験時にイメージできたならA答案から外れることはなく、合格はほぼ手中にあると言っても過言ではないのではないかと思います。
 また、「すいねく」や「どねく」で問題の解答順が話題になることがありましたが、取材記者に徹するなら必然的に全体の記事(答案)構成を決めてから筆を進めるはずです。事例Ⅳを除いて解答順に意味がある(あった)と感じているなら、【フェーズⅠ】に陥っていないかご自身の解答プロセスを振り返ってみることを強くお勧めします。

5. 中小企業診断士試験に思うこと
  最後にこの試験について思うことを述べたいと思います。この試験の難しさは、多様な知識や高い論理性が求められることだけでなく社会人、特に勤務経験の長い社会人にとっては別の高いハードルがあると思います。企業勤めの場合、程度の差こそあれ、会社内での企画起案、昇格のための試験や論文など他社や他人との差別化が求められるのが常であり、その為の訓練を日々受けているのではないでしょうか?しかし、2次試験が上述しました様に全く赤の他人の出題者のしかも与件と設問へ難解に分解されたコンサルレポートを解釈、推察する能力を問うものであるなら、取材記者などそれを本業としている人は別でしょうが、それに適応する様な訓練を受けている方が稀で多くの社会人は他人がではなく、自社が、自部門が、自身が、どう振る舞うかを主体に思考を巡らせ、その思考の結論を効率的かつ最短に得るために過去の経験に基づく仮説から判断するというプロセスを辿ってしまい易いと思います。この辺りがこの試験の難易度を押し上げているのだろうと思います。
一方で2次試験が筆記試験であるが故の限界も認識しています。つまり、2次試験合格者は出題者の意図を解した良き取材記者であっても自律的にコンサルタントとしてクライアントへ価値あるものを提供できるかは、全く別の次元のものだからです。それが故にコンサルとして実務能力について数日の実務補習で補完することになるのでしょうが、それ以降においても本人がクライアントに対してどの様なストーリーを自らの言葉で語れるのか、語れるようになるのか日々、継続研鑽が求められる通過点としての資格試験であろうと思います。
今後は、「ねくすと」で得た知見や縁を大切にし、中小企業診断士として新たな立場で初志の通りワクワクする仕事をワクワクする人たちと行える様、不断の努力で自身を向上させ少しでも社会への貢献に繋げられるスタートを切ることができればと思います。

6. 感謝の辞
  最後になりますが、献身的に支援して頂いた歴代「ねくすと」OBの方々、一緒に同じ目標を目指し驚異的な志の高さを持った受験仲間の皆さんに感謝と尊敬の意を表しますと共に、今後のご活躍と熱い思いの成就を祈念しております。
有難うございました。