今回から、事例Ⅲの振り返りに入ります。平成27年度の事例Ⅲは、鋳造業者が事例企業になっています。また、与件には、製造工程のチャートや、工程別加工時間などのグラフが付されています。事例Ⅲでグラフが出てきたのは、平成24年だったでしたしょうか、食肉加工業者の事例で、流動グラフから滞留数を求めさせるものがありました。推測ですが、文章だけだと情報理解に苦しむ受験生が多いので、このような配慮がなされたのではないかと思います。設問を見ても、具体的な数字を計算させる問題が出題されていません。
事例企業は、建設資材としてのマンホール蓋、農業機械部品としてのトラクター駆動部、産業機械部品としての工作機械構造関連部品を製造しています。また、自動車部品の新規製造依頼を受け、受注獲得のための検討を実施しているところです。
事例企業は、海外製品との競争や公共事業の減少により売上が減少する苦しい時期を経験しました。また、中小の鋳物業者が減少する中、鋳造工程の生産能力向上の努力を続けてきました。機械加工工程と塗装工程も新設し、一貫生産体制を構築したことにより、機械部品の受注獲得に成功しました。しかし、それら機械加工工程を原因とする、機械部品の納期遅れが発生しています。この状況を放置すれば、短納期が求められる自動車部品製造にも深刻な影響が及びかねません。
さて、本事例企業が抱えている最大の問題は何でしょうか。それは工程間の生産能力の不均衡です。具体的には、機械加工工程というボトルネック工程へのケア不足です。事例企業は、経営環境の変化から、鋳造工程の生産能力向上に主眼を置いてきました。その結果、鋳造工程の生産能力は向上しました。その証拠が、鋳造工程後の大量の製造仕掛品在庫です。これが原因となって、製造リードタイムの長期化や、段取り時間の増大という問題が発生しています。与件からの推測ですが、事例企業の社長は鋳造工程の生産性を向上させ、製造原価を低減させることにより、海外製品との競争や取引先の公共事業受注による発注増を狙ったのだと考えられます。しかし、製造工程全体の生産能力バランスを重視しなかったため、鋳造工程の仕掛品在庫が増大し、さらに他工程を圧迫しています。この部分にメスを入れなければ、事例企業が抱える問題の根本的解決は難しいでしょう。そうした視点から、次回以降、各問題を振り返っていきたいと思います。
エリヤフ・ゴールドラッドの「ザ・ゴール」を読んでいた方には有利な事例だったかもしれません。この機会に、制約理論を復習されてはいかがでしょうか。