事例Ⅲの振り返り第4回は、第1問です。
第1問は、リード文に続き、3個の設問で構成されています。設問1は、自動車部品製造に参入するにあたっての強みを分析させる問題、設問2は自動車部品製造に参入するメリットを分析させる問題、設問3は求められる短納期化に対応するために必要な対応策を分析・提言させる問題です。
設問1は、それほど難しくはなかったでしょう。鋳造技術に加え、機械加工と塗装加工を備えた一貫生産体制があることは明らかな強みです。もう一つの強みは、技術を知っている営業部の存在でしょう。昨年のコラムで、事例Ⅲの主要論点の一つに、営・製・販の連携を取り上げましたが、まさにそのとおりでした。事例Ⅲだから生産戦略に関することしか書けないと考えるのではなく、生産戦略も一つのサプライチェーンの中で機能するのだという視点が必要です。
設問2は、若干骨のある問題です。予見文には自動車部品製造の新規受注の意図や、メリットそのものに関する記述はありません。そこで、事例企業がこれまで置かれてきた経緯を確認すると、①主力製品のマンホール蓋は、公共事業の減少や海外製品との競争激化により、売り上げが減少する時期があった②社長は、鋳造工程の生産能力向上や一貫生産体制の整備により、農機具や産業機械部品の製造受注に成功した、とあります。すなわち、主力製品はコモディティで需要変動の影響を受けやすく、それが業績に直接的な影響を与えることがわかります。とすると、社長が求めるものは何かといえば、高い競争力と付加価値を持つ、産業材としての製品だったのです。自動車部品の製造は、その考えの延長線上にあります。また、自動車部品製造で培った技術を活用し、一貫生産体制と組み合わせることで、更なる新市場の開拓も期待できると思います。このような点をまとめればよいでしょう。
設問3は、一言でいえば製造リードタイムの縮小ですが、問題はそれをどの部分で達成するかです。与件の製造ダイアグラムを見ると、機械加工工程が「要求仕様に加工する」とあります。この事例企業は、機械加工工程を備えることで、単なる鋳造業から、機械部品加工業に業態を拡大できました。つまり、機械部品加工の製品価値を与えているのは、この機械加工工程以降の工程だと言えます。それゆえ、機械加工工程の製造リードタイムの削減方策を検討しなければなりません。そのためにには、全体戦略である、鋳造工程での作りすぎを防ぎ、加工工程全体の生産能力の均衡を図った上で、機械加工工程で明らかになっている問題を改善することがポイントです。
次回は、第4問を振り返ります。